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東京高等裁判所 昭和37年(ツ)197号 判決 1963年11月05日

上告人 控訴人・被告 細海海蔵

訴訟代理人 松井道夫

被上告人 被控訴人・原告 星野隆

訴訟代理人 藤山藤作

主文

本件上告を却下する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件記録編綴の送達報告書(記録第四四三丁)によれば、上告人に対する上告受理通知書は昭和三十七年十月十二日上告代理人に送達せられたことが認められる。本件上告状には上告理由の記載がないのであるから、上告人は民事訴訟法第三百九十八条民事訴訟規則第五十条により右上告受理通知書の送達を受けた日から五十日以内に、上告理由書を原裁判所に提出しなければならないのにかかわらず、右期間経過後である同年十二月二日に当裁判所に上告理由書を提出したものであることは、本件記録編綴の上告代理人松井道夫より当裁判所宛の上告理由書在中とある封筒に押捺された当庁受付印の日附(記録第四五九丁)によつて明かである。もつとも、本件記録によれば、上告代理人は、上告理由書を当裁判所に提出したのが誤りであることに気付いてか、昭和三十七年十二月四日原裁判所に法定期間の伸長申立をなしたところ、原裁判所は同月十日右申立を法定期間経過後に提出された不適法のものであるからとして却下したが、右裁判は不服の申立がなされずに確定したことが認められ、また、原裁判所は、上告代理人がもし本件上告理由書を原裁判所に提出したならば、法定期間内である同月一日に到達したであろうから、上告人は法定期間内に上告理由書を提出したと認めるを相当とするとの意見を付している。

上告理由書の提出期間は不変期間ではないが、当事者がこれを徒過すると、上告を却下される不利益を受けるのであるから、当事者が自己の責に帰すべからざる事由によつて、期間を遵守することができなかつた場合においては、期間経過後であつても上告理由書を提出することが許されるものと解するを相当とする。このように解しないと当事者が天災・事変その他自己の責に帰すべからざる事由によつて期間を遵守することができなかつた場合においても、これを救済する方法がなく、当事者に回復することのできない損害を生ぜしめることとなるからである。

しかしながら、上告人が上告理由書を民事訴訟規則の定める期間内に原裁判所に提出しなければならないことは、上記のように民事訴訟法第三百九十八条の明定するところであるから、上告理由書を直接当裁判所に提出した場合に、原裁判所に提出されたならば、到達したであろう日を以て、右上告理由書を提出したものと認めることはとうていできず、裁判所を誤つたとしても、当裁判所に提出された日を以て裁判所に提出されたものと解するのほかはない。しかも本件では当事者が誤つて上告理由書を原裁判所に提出せずして、当裁判所に提出し、そのために法定の期間を遵守できなかつたのは、ことに、上告代理人が弁護士であることを考えれば、明かに自己の責に帰すべき事由によるものと解せざるを得ない。従つて、上告人は法定の期間内に上告理由書を提出しなかつたものと認めざるを得ず、上記上告理由書は期間経過後の提出にかかるものであるから、判断のかぎりではない。

よつて、民事訴訟法第三百九十九条第一項第二号前段・第三百九十九条の三により本件上告を却下することとし、上告審での訴訟費用の負担については同法第九十五条・第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 杉山孝 裁判官 山本一郎)

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